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3Dテレビはいかにして、普及するのか?

約20年前、まだ4対3のブラウン管テレビが当たり前だったころ、ワイドテレビなるものがビクターから発売された。僕はそのころ、編集・企画プロダクションを経営していて、ひょんなことから、韓国のS電子から、「ワイドテレビが本当に普及するかどうかを調査してほしい」という依頼を受けた。

市場調査・予測というのは初めての経験だったが、その報告書の結論は、「ワイドテレビは普及する」というものだった(技術レベルの調査からメーカー・識者へのヒアリングまで行った)。地デジの?地?の字もなかった当時、ハイビジョンという言葉には、まるで21世紀を象徴するような未来的な響きがあったが、少なくともメーカーにとっては、将来、テレビがハイビジョンに移行するのは規定路線だったようだ。

とはいえ、DVDもなかった時代、家庭のワイドテレビで楽しめるようなコンテンツはほとんどなかった。そこで、メーカーが行ったのは、4:3の放送を16:9に変形させるナチュラルワイドモードとかオートモードなる画面(変形)モードの搭載だ。放送の映像を歪めて映すテレビなんて、僕は大きなお世話だと思っていたが、当時はそうした表立った批判は少なかった。評論家をきちんとコントロールできるほど、その頃の家電メーカーの力は大きかったし、人々の声を直接聞くことのできるネットのようなメディアがなかったことも大きいだろう。まぁとにかく、結果、ワイドテレビは人々の批判にさらされることなく、ジワジワと普及していった。

当時10社近くあったテレビメーカーが、みんな右ならえをしてワイドテレビを作り始めたのだから、そりゃあ、普及しないほうがおかしい。しかし、それでもテレビというお茶の間に入り込んだ装置とその習慣を丸ごと変えるには、やはり、相当の時間がかかった。しかも、その間に、放送はデジタルハイビジョンへと変わってしまい、テレビもアナログのブラウン管からデジタルの液晶やプラズマへと変遷。大義では、確かにワイドテレビは普及したのかもしれないが、20年前、僕が調査をした頃のワイドテレビが普及したかというと、それは違うだろう。

さて、昔話が長くなってしまったが、今、僕が気になっているのは、3Dテレビだ。果たして、3Dテレビは今後、どう普及していくのだろうか? ワイドテレビ同様、メーカーは雪崩れるように3D対応へと軸足を移し始めているから、今後、3Dテレビが普及するのは間違いない。しかし、ここで問題となるのは、まず、3Dコンテンツが圧倒的に不足している点だ。しかも、メーカーはそれを補うために、2D→3D変換という、これまた大きなお世話的機能を搭載。これでは、まるでワイドテレビのときとと同じではないか。

そして、もう一つの問題は、ここ2〜3年でかなりの家庭がテレビを買い替えているという現状だ。地デジテレビの国内出荷台数(かっこ内は累計)は、地デジがスタートした2003年が45万台、2004年が160万台(205万台)、2005年が313万台(518万台)、2006年が549万台(1067万台)、2007年が808万台(1875万台)、2008年が955万台(2830万台)、2009年が1358万台(4188万台)、そして2010年は予測では2200万台(6388万台)を突破する勢い。日本の世帯数が5000万として、なんと2008〜2010年の3年間で90%の世帯がテレビを地デジ対応に買い替えることになる。

要するに、いくらメーカーが3Dテレビを宣伝しても、ほとんどの世帯ではすでに地デジテレビを導入済みだから、やはり、普及にはかなりの時間がかかるということだ。BCNによると、5月31日〜6月6日の売上データにおける3Dテレビの構成比(台数ベース)は0.9%に過ぎず、仮に、これが年内5%(2200万台の5%だから、110万台)に伸びたとしても、全世帯のわずか2.2%。もちろん、徐々に3Dテレビが増えていくとはいえ、テレビの買い替えサイクルは10年といわれているから、これらの世帯の次のテレビの買い替え時期は、早くても2017年か2018年頃ということになる。

しかし、この予想も「そのまま行けば」という条件付きでしかない。テレビは来年の夏以降、冬の時代に突入し、出荷台数は2007年レベルまで落ち込む可能性がある。しかも、多くは2台め需要だろうから、3Dテレビが今と同じ話題性を持ち続けられるかは、はなはだ疑問。先のBCNも、3Dテレビが普及するためは「コストダウン」「十分なコンテンツ量の確保」「子供の視聴など健康面での問題」「メガネを掛けることのわずらわしさ」といった問題があるとし、なんと「裸眼3Dテレビの登場が本格普及の条件」とまで言及している。

確かに、ソニーや東芝が裸眼3Dテレビの開発に着手しているというのは本当で、ソニーに至っては、8月26日のブラビアの発表会で「恐らく最終的には裸眼に変わっていくだろう」とまで踏み込んだ発言をしている。メガネ方式の3Dテレビを販売していながら、ここまで言っちゃっていいの? と思うが、メーカーも3Dについては今後どうなるかわからないというのが正直なところだろう。

しかし、そうなると、結局、バカを見るのはユーザーだ。今、3Dテレビを大枚はたいて買ったとしても、当面は楽しむコンテンツがない。そして、ようやくコンテンツがそろい始めたと思ったら、今度は裸眼3Dテレビの話題がチラホラ、なんてことになりかねない。世間は3Dテレビ元年と言っているが、実はまだ何も始まっていない。今はまだ、実験期間と肝に命じるべきである。

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